引用元: https://hobby7.5ch.net/test/read.cgi/occult/1129644145/


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839: N.W ◆0r0atwEaSo ID:q6cN+cdd0
昔、聞いた話。


舞い落ちる雪の粒の中に、極くまれに、木の葉型のものがある。それを風文と言う。


風文は、人肌に触れ、融ける瞬間、声になる。

それは、山で遭難した人の今際のきわの言葉。

はからずも死者となり、魂は黄泉路を、身は山路に留まらざるを得なくなった者を、雪様が憐れみ、近しい者に届けてくれる便りだ。


雪様の姿は千差万別。

ただ、いつも足元に白い仔兎が遊んでいるらしい。

それで、風文を貰った人は、かぼちゃ程の小さな祠を作り、中に小さな雪兎を祀る。

お供えは、熊笹の上、胡桃の殻の片割れにお団子、もう半分にお酒を上げる。

話してくれた夫婦は、ご主人のオーバーの袖口に付いた風文から、確かに息子の声を聞いたと言う。

「ごめん、春にはきっと帰る」

その言葉どおり、翌年の春の終わりに、彼は山から帰って来た。

以来、風文は来ないが、息子の命日には、庭に小兎のちょこなんと納まった祠が作られる。

867: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE ID:4XciE5Q30
雪解け水の季節や、夏の降雨期を終え、水が少なくなった滝を登っていた。

掌に吸い付く一枚岩の乾いた冷たさが心を浮き立たせ、指先に感じる小さな窪みが何とも気持ちよく、気温や湿気、光る空気が心地よかった。


水が少ない滝はルートに幅があり、自分の技術に合わせて、好きなルートで登ることが出来る。

俺は右斜めに登り、最後に水を避けて左へ逃げるルートで登っていた。


顔にかかる水しぶきが増え始めた。

そろそろ左へ方向を変えよう、そう思った時、不意に声がした。

何かの鳴き声に思え、耳を澄ました。人の声だ。距離は分からない。

言葉は意味あるものとして耳に届かない。


じっと聞き耳を立てた。

水音が邪魔で、やはりよく聞こえない。下にいる仲間たちの声ではない。


右側、水の流れの向こうから聞こえてくるように思えて仕方ない。

知らず知らず、身体が右に寄った。

左手が岩の窪みを掴み直した時、岩がぐらりと揺れた。

868: 全裸隊 ◆CH99uyNUDE ID:4XciE5Q30
まずい。

掴んでいた突起がもげ、手ごたえの無いまま左手が宙に浮いた。

バランスが崩れ、右手に力を込めた。


崩れたバランスを回復させようと、全身が力みかえり、呼吸が止まり、喉が痛くなるほど唸った。

左足に力は入らず、ただ岩の上にあった。

右手右足を支点に、ドアが開くように煽られた身体がじわじわと戻り、岩が左手の中に入ってきた。

左手中指、力を込め、岩にしがみついた。


「ごめんね」


耳元で男の声がした。瞬間、水の流れる音が変わり、水が巨大な塊となった。

音と水しぶきが、俺の世界を満たした。

両手から岩肌が失われ、数メートルを滝壷まで落ち、下で待っていた仲間に引き上げられた。

俺が怪我ひとつしていないことが分かると、心のどこかで何かが外れ、最初に俺が笑い出し、やがて全員が爆笑した。


仲間たちにとって、今でもそれは不意の増水と、無様に転落する俺の姿とによる笑い話でしかない。




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504:裸隊 ◆CH99uyNUDE ID:O/xIqQ6J0
夜明け前に目覚め、テントの外へ出た。

明かりといえば、冴え冴えとした月と、小さくきらめく星だけ。

東の空は、まだ暗い。

ヘッドランプを点灯させる気にならず、トイレへ向かった。

じゃりじゃりと小さな足音を立てて歩いていると、前方から熊よけの鈴の音が近付いてくる。


小さいが高い音で、夜中ともなればその音は、結構耳に響く。

静かなテント場を通過する時くらい、音を立てないようにすれば良いのにと思っているうち、すれ違った。


音とすれ違った。


立ち止まると、すぐ後ろで音が止まった。

振り返ろうとして、思いとどまった。きっと、何者も居ない。

歩き出し、背後で遠ざかる鈴の音を聞いていた。


トイレを済ませ、多くのテントが張られたテント場を眺めながら自分のテントへと戻った。

テントのひとつから顔を出している女性と目が合った。

大きく見開かれた目。

たまたま目が合ったのではなく、ずっとこちらを見ていたような目だった。

その目が俺を見つめ、さっとテントの中に引っ込んだ。

入り口のファスナーが慌しく、荒っぽく閉じられた。


背後で小さく高い、熊よけの鈴の音が響いた。


531: 雷烏1号 ID:nlIeX7a00
同僚の話。


大学で山岳部に入部した彼は、初めて単独登山に挑戦した。

特にトラブルもなく無事山頂に到着。荷物を降ろしコーヒーを沸かしていると、どこからともなく山鳴りが響き始めた。

だが、不思議と恐怖感はなく、その重も重もしい金属音の迫力に聞き入っていると向かいの岩肌にまるでマウント・ラッシュモアのように5人の男の顔が浮かんできた。

そして、崖下にある湖からは煙のような霧がたちこめ、その壮厳な様式美に圧倒されてしまった。


卒業してから山に疎遠になってしまった彼だが、20年後に再びその地を訪れることになった。

だが、5人の顔は男と女の2人になっており、湖は枯れ、花と草が生い茂っていた。

山鳴りも聞こえず、代わりに山鳥の美しい鳴声が聞こえてくる。

同行した妻は「すごく癒されるわ」と感激したそうだが、彼には寂寥感しか残らなかった。


「時は全てを変えてしまうんだよ」


寂しそうに語った彼はコップのウィスキーを一気に飲み干した。


557:Don Felder Don Henley Glenn Frey 裸隊 ID:UfRqsQhZ0
「山小屋 刈穂荘」

夜の闇が訪れた山道、寒い風が俺の髪を揺らす。

枯れた草の香りがあたりに漂う。

遥か遠くにかすかな光が見え、俺の頭は重く目の前が霞む。

どうやら、今夜は休憩が必要だ。

山荘の入口で従業員を呼ぶ。すると戸口に女が現れた。


「ここは天国か地獄か」


俺は心の中でそう呟いた。

すると彼女は蝋燭の灯をともし俺を部屋まで案内した。

廊下の向こうで、こう囁く声が聞こえた。


 刈穂荘へようこそ。ここは素敵なところ。

 刈穂荘はいつでもあなたの訪れを待っています。


彼女は砂のように微笑んだ。

大広間では山男達が野卑な匂いの汗を流しダンスを踊っている。

「焼酎を飲みたいんだが」と主人に告げると。

「悪いねぇ。昭和44年から焼酎は一切置いてないんだよ」と彼は答えた。

刈穂荘は楽しいことばかり。適当な理由を作ってお楽しみください。


天井には鏡があり、カップの中には赤い濁酒。

「ここにいるのは自分の企みのために囚われの身になった人ばかり」と彼女は語った。

やがて大広間では祝宴の準備が整った。

だが集まった連中は誰も獣を頃すことはできなかった。


俺が最後に覚えていることは出口を探すことだった。すると従業員の一人が言った。


「落ち着きなって。俺達はここに住み着く運命なんだよ。いつでもチェックアウトは出来るけどここを立ち去ることはできないんだ」





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